クラウドファンディング挑戦中!研師と刀剣の研ぎを紹介します。
2019年11月27日
刀は、色々な時代の姿の特徴や、国や個人によって作風が異なるので、それぞれの刀の魅力を引き出すことが必用です。そのためには、時代の刀についての知識や刀にあった砥石を選んだり、工夫することが必要となります。また、姿が整っている刀ばかりではないため、将来を見据えて、姿を整えることも必要になります。
平安時代の刀が現在に残っていると言うことは、研ぐと言っても、極力研ぎ減らさないように気をつけなくてはならないのです。一度研ぎ減ったものを、元に戻すことは出来ません。また、刀には、芯鉄の入った刀も多いので、あえて、刃こぼれや錆びによるへこみを取らずに残す研ぎもあります。刀を研ぐときに、研師さんと研ぐ刀について、話を聞いてみると、おもしろい発見があるかもしれません。
この回は、プロジェクトの研師と刀剣の研ぎについて、紹介したいと思います。
プロジェクトメンバーの研師を紹介をさせて頂きます。
研ぎは、萩光明(泰明)さんに、アドバイスを森脇明彦さんにお願いしています。
研師の萩さんは、室町将軍に仕えた時代から続く本阿彌流、人間国宝の永山光幹先生のもとで修行され、本阿彌流免許皆伝の無鑑査でいらっしゃいます。
アドバイザーの森脇さんは、永山光幹先生が開設された「永山美術刀剣研磨研修所」で学ばれ、現在研ぎをされるとともに、広島城の刀剣手入れ・展示のアドバイザーをされています。お二人は、兄弟子と言うことになります。
今回、嚴島神社での調査は、森脇さんに依頼しました。研磨についてもお願いしたところ、萩さんをと推薦があり、萩さんにお願いすることにいたしました。
研師の萩光明さん
研師、アドバイザーの森脇明彦さん
人間国宝・永山光幹先生は、お元気なときに何度も広島に来られました。萩さんとともに来られることもあり、森脇さんと同期入門の堂道武美さん、広島出身の兄弟子佐々木卓史さん、後輩の岡山の原田祐次さんなどのお弟子さん達と語らい、私も加えていただくことがあり、研師の目から見た刀剣、心構えなど多岐にわたってお話しをうかがうとともに、「鉄の芸術 日本刀を鍛える」を編纂したときには、先生の書かれた刃文の原画・コピーをご提供頂き、励まして頂きました。
刀剣の研ぎについて
研ぎの工程を紹介したいと思います。興味を持って頂けると嬉しいです。
研ぎは、鍛冶研ぎの刀姿を更に整える下研ぎと、美しく仕上げていく仕上げ研ぎに分かれます。
下地研ぎ
砥石を用いて研ぐ工程です。
この工程では、刃文や肌はまだ見えません。刀身彫刻や鎺 (はばき)の製作、鞘の製作はこの状態でおこないます。
砥石の真正面に位置するように、床几(しょうぎ)に腰を掛け、砥台枕の上に砥砥台を、その上に砥石を置き、右ひざを立て、踏まえ木を右足のかかとと左足のつま先で押さえて、砥石を固定します。
右ひざ頭は、右わきの下にきます。床几に腰は掛けるのですが、床几に頼るのではなく、体重が踏まえ木に集中するようにします。
研石を配置した状態(森脇さん提供写真)
砥石で研ぐ(森脇さん提供写真)
「腕力で研ぐのではなく、両肩を水平にして、踏まえ木にかかる右足と左のひざ頭の二点を支点として、体を振り子のように前後に動かして砥石をあてて研いでいきます。
研師の道具と研場の様子 (写真は萩さん)
研ぎ石について
ここで研ぎ石についても紹介しておきましょう。
下地研ぎの砥石は複数あり、砥石の目の粗いものから利用し、姿を整えるとともに、砥石の目を細かくしていきます。
備水砥(びんすいと)→改正名倉砥→中名倉砥→細名倉砥(こまなぐらと)→内雲砥(うちぐもりと)と、利用します。
内曇は、刃先に向いている柔らかめの刃砥と平地に向いている硬めの地砥を用いて研がれます。
砥石の名称 (森脇さん提供写真)
仕上げ研ぎ
この工程では、主に親指で砥石を扱いながら磨き上げ、刀の美を引き出していきます。
下刃艶→地艶→拭い→刃取り→磨き→(鎬造りの場合)横手筋切り→(鎬造りの場合)ナルメという工程で行います。
下刃艶 (森脇さん提供写真)
下刃艶(したはづや)
刃艶の作業は、内曇の筋状に残る砥石目を取って、砥石の筋目のない梨地状の鏡面を生み出す作業です。
内曇刃砥を薄くして、和紙(吉野紙など)を漆で裏打ちし、更に研いで薄くした砥石を1センチ程度の大きさに切り、親指を用いて研ぎ上げていきます。
裏打ちした艶砥を張り艶と呼びます。
張り艶(左が表で砥石面、右が裏で和紙面)
地艶(じづや)
内曇砥の筋状に残る砥石目を取り、鍛え肌を引き出します。
刀の表面は、平肉が付いているため、普通の砥石では、細かな筋状の痕跡がつきます。それを刀の表面によりフィットするように薄くした砥石でならしながら取るのです。
薄くした鳴滝砥(なるたきと)を砕いて使用する場合と、裏打ちして使用する場合があります。
拭い(ぬぐい)
酸化皮膜を乳鉢ですり細かくしたものを丁子油で溶いた溶液をこし紙でこして刀身に付け、青梅綿で拭いこんで、地鉄を黒くするとともに光沢を出す作業です。
刃取り(はどり)
刃先部分を刃取り用の艶砥で刃先を白くしていく作業です。
磨き
この作業では、棟(むね)や鎬(しのぎ)部分を鏡面に磨いた磨き棒やへらを用いて、鏡面仕上げをおこなう作業です。流派によって多少異なります。
横手筋切り
切先の部分の境界線を横手と呼び、切先をナルメる前に当て竹と張り艶と竹ヘラを用いて、幅のある線を引きます。
ナルメ
ナルメ台の上に薄くした内雲砥に和紙で裏打ちしたナルメ艶を置いて、切っ先部分をならす作業です。
参考:「技法と作品研磨彫刻編」大野正編、星雲書院
最後までお読み頂きありがとうございます。
ツイッター、Facebookをはじめ、たくさんの激励のメッセージ、情報拡散など、本当にありがとうございます。改めて、このプロジェクトに対する想いを強くしているところです。
ご質問にも、私がお答えできることは、お答えしていきたいと思いますので、遠慮なくご連絡ください。
引き続き、ご協力、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。
三上貞直拝