木下宗風さんによる太刀拵え金具の製作経過報告(2)
2020年11月08日
前回の報告で、銅の地金にて、太刀金具の下地は完成したが、片手で振るには、重いので、何か工夫が必要という意見が届いたと報告いたしました。今回は、対応の御報告です。(前回の報告)https://casanell.com/projects/view/13/report_view/45鐔は、鉄、胴、赤銅、真鍮・・・など金属で作られていることが多いものです。
しかし、それだけではなく、木の板や革でも作られていました。革で造られている鐔を「革鐔(かわつば)」とか「練鐔(ねりつば)」と呼ばれ、古い太刀などで、すかし文様などがないシンプルで厚く感じる鐔、覆輪(ふくりん:張り合わせて作られた板や縫い合わせて作られたものなどの縁の部分が痛んだり剥がれないよう薄い金属の帯状の板や帯状の布で縁を覆い強化したり、飾りとして縁取ったもの)がかけられているものは、革製である可能性があります。
実際に情報収集過程で、木製板に鮫皮が貼られて造られている鐔と、上記革鐔を拝見させていただきました。
鐔を造る職人さんは何人か存じ上げていましたが、木板や革を使って作られる人は知りませんでした。しかし、これらの素材を使うのであれば、重量などにも気を配り、それらの素材をも扱う人の協力がほしいなと考えました。甲冑は、札(さね)と呼ぶ鉄製の小片を使うことが多いのですが、革も使用すると聞いたことがあり、鎧を作る方なら協力いただけるのではないかと思いつき、甲冑師の豊田勝彦さんに協力をお願いしました。
平安期甲冑に使用される札 上段二行札 下段三行札 黒色鉄札 茶色革札
豊田さんは、平安~鎌倉時代の甲冑の調査や模造をされたことがあるとのこと。
ただし、鐔は造ったことがないないが、その材料の革は所蔵されているとのことで、金工の木下さんと合作でなら作ることが可能ではないかということになりました。
革鐔の材料となる牛の生皮は、ベルトやランドセル等に用いられる床革とは全く異質な、革に膠の液をしみこませて堅くしたらこんな感じかなと思うような、半透明な黄土色の板状の材料でした。
鎧や太刀外装に限らず平安~鎌倉時代の非鉄金属製品一般として金一色・銀一色という志向は希薄であり、いずれも金銀併用が好まれたことが遺物から窺われ、それを意識した方が良いとアドバイスをうけました。
通常革鐔は複数枚の革を貼り合わせて構成されていますが、今回は入手可能な最厚の部材一枚で芯をつくり、表裏両面に銀の鏡板を貼り付け、覆輪をかけた三層構造の鐔の提案が出され、決定するとともに製作に着手しました。
豊田勝彦さんの意見や提案を踏まえ、鐔の重量軽減のための新たな挑戦が始まりました。
1.銅製の鐔下地を豊田さんに送付して、厚さやサイズから適当な革を選定
上にのせられている鐔は、木下さんが製作した銅製の鐔下地
2.型取り
3.なかご穴を開ける
4.漆仕上げ
5.革鐔芯の漆仕上げ完成
6.革鐔の芯と、鏡板の厚さにより切羽を新たに製作
金銀交互の配色で作られることが多いという意見から、銀の切羽も新たに製作しました。
銅の切羽には、鍍金して金銅仕上げをめざします。
上段:小切羽、中くらいの切羽、大切羽
下段:銀鏡板、革鐔芯、銀鏡板、銅鐔下地
7.鏡板と練り革鐔を調整して漆にて貼り合わせ、覆輪をかける
微調整のため、仮装着
8.覆輪完成
木下さんからの報告によると、銅地鐔の重さは、200グラム、革芯の鐔の重さは77グラムと、日数はかかりましたが、元の重さより123グラム減、約37パーセントにすることができました。
続いて嚴島神社家紋「三つ亀甲に剣花菱」が完成
太刀金具の下地が完成です。
皆様、仕上がりをご期待ください。
朝晩寒くなり、ファンヒーターを出しています。どうぞコロナと共に風邪にもお気をつけください。
皆様のご自愛とご健勝をお祈り申し上げます。
三上貞直拝
甲冑師 豊田勝彦さんの紹介
豊田勝彦 1963年生まれ
平安時代様式紅裾濃縅鎧・山田家文書所載黒糸威胴丸・板札喉輪各種等製作
甲冑およびそれ以外の文化財修復、補修に多数従事
展示会の企画、展示協力等多数。
フェイスブック:https://www.facebook.com/katsuhiko.toyoda.5
豊田氏製作 平安時代様式鉄十四張星兜
豊田勝彦氏展示協力による展示会のお知らせ
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/kyodoshiryokan/exhibition/3000231/index.html
令和2年度 特別展・企画展
伝統工芸展「甲冑刀装 甲冑師・刀剣柄巻師・白銀師のあゆみ」
会期 2020年7月11日(土曜日)から11月23日(月曜日・祝日)まで
板橋区立郷土資料館